2019年11月09日

【時代】アンソロジー恵比寿西口

【時代】アンソロジー恵比寿西口
【時代】アンソロジー恵比寿西口

僕はジョーと恵比寿駅前で待ち合わせた...

昭和60年。まさにまだ昭和のそれで今の言う恵比寿ではない。

その恵比寿駅改札を出ると南側にはそびえるようにバッティングセンターがあり駒沢通り、恵比寿南交差点ロータリーあたりまでアーケード商店街になっていた。
それも古めかしい商店といった趣の薬局だったり、金物屋だったり雑穀屋だったり、本屋だったりと。

「ユー、メシ食った?うまい店があるんだ」

そう言うと車の少ない駒沢通りをJウォーク、あの外人特有の歩き方で。

僕はジョーの歩調に合わせるのがやっとで5年ぶりの再会というのに話をする余裕などなかった。

「ほらあそこだぜ、ちょっとボロっちいけどな」

確かにボロっちいというか古めかしい洋食屋で、レストランと呼ぶにはいささかの戸惑いが...

入口のガラスドアには金色に縁どりされた枠の中に小洒落たシネマ文字で「キッチン・ボン」とあった。

ジョーが言うにはなんでもロシア料理が専門らしくそこの「ボルシチ」とかは日本一とかの定評なんだとか。

まあ、僕なんかロシア料理とか言われてもさっぱりな田舎もんで、まして「ボルシチ」なるものを味わったことが未だかつてない。
で、後で気がついたことなんだがその恵比寿西は高級住宅街の代官山入口で、「キッチン・ボン」は有名人御用達。
往年の昭和の銀幕スターから女王こと美空ひばり、長嶋茂雄さんたちが足繁くそのボルシチを召し上がりにとか。

「最近は昼メシ、ほとんどここなんだ、会社すぐそこだし」


そう言いながら、ジョーは、古い建付ながらも重そうなドアをチリリ~ンとベルを鳴らしながら開けた。

「あら、いらっしゃいジョーさん、今日はどなたと、まあ、そちらの紳士と...」

「まま、いつものやつ、お願い」


ジョーがママさんだというその洒脱な小柄なオバさん、ママさんという趣ではない(笑)。
厨房の中では、ご亭主なんだろう、らしきオジさんというか既に還暦もかなり過ぎたであろうと思しきコックさん。

「ジョーさん、いつものでいいの?そちらの紳士も?」

まあ、ママさん、冗談のつもりなんだろが、ジーパン、ジージャンにスニーカーの30男つかまえて紳士もないもんだと思ったが、ここ「キッチン・ボン」はそうした紳士淑女がお揃いの店なので、そう言う言葉しか出なかったのではないかと可笑しくなった。

「ジョー、俺、ボルシチなんて食ったことねぇぞ」

「ユーだって高崎じゃ俺の食ったことのないもん食わせたじゃないか、もりやの焼きそばとか、あっ、シャンゴのカチャトラは最高だったけどな」


そしてそれから2年間、恵比寿の住人になるのだがやはり「キッチン・ボン」のボルシチよりもその「キッチン・ボン」から歩いて5分ほどの明治通り沿い渋谷東二丁目の「香月」に行く方が多かった。

To be continued...

【時代】アンソロジー恵比寿西口





Posted by 昭和24歳  at 10:22 │Comments(0)

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