2019年10月02日

エレキ一代「古のサカヰレコード」

エレキ一代「古のサカヰレコード」
エレキ一代「古のサカヰレコード」
ビクターのエレキ現金正価13,800円

関東の奥まったこの地方都市にはベンチャーズもビートルズもそうはなかったし、もちろん「テケテケテケ」も。

僕らもその時代、世代の動物的感、嗅覚かロックンロールのエルビス・プレスリーやら、アメグラのポール・アンカ、二―ル・セダカ、デル・シャノン、そしてイギリスのクリフリチャード辺りを聴いてワクワクしていた頃だった。

もっとも、テレビでは「ザ・ヒットパレード」で飯田久彦、尾藤イサオ、内田裕也などが日本語に翻訳されたロックンロールを歌い、そのバックバンドが「寺内タケシとブルージーンズ」であったり、「ブルーコメッツ」であったりしていた頃だった。

今でも鮮明に憶えているのは、東京渋谷に住んでいた従兄の連れられて行った新宿南口、甲州街道沿いの、丁度、明治通りとの角にあった「新宿アシベ」。
そこで聴いたと言うか観たというか、「尾藤イサオ」の「悲しき願い」、ゲーリー・バートン、アニマルズのやつだ。
確かあれは昭和38年の夏だったか、、バックバンドが「ジャッキー吉川とブルーコメッツ」だった。

内田裕也、フランツ・フリーデル、ミッキーカーチス弘田ミエコ、中尾ミエと、それらの歌手のバックバンドがその後の「田辺昭知とスパイダーズ」であったり、「伊藤敏道とリリオリズムエアーズ」ではなかったかと。
とにかくその当時はいわゆる「ロックバンド」の時代ではなく「ロック歌手」全盛の時代だった。
「新宿アシベ」に「池袋ドラム」は夏休みになるとよく、その従兄に連れて行ってもらった。
そうだ、新宿駅西口にあった、名前は忘れたが「ボーリング場」。それもその頃初めてボーリングと言うものをやった覚えがある。

「ダンスホール」。

当時高崎には「みゆき」そして「社交」、それにあとひとつあったようだが僕の記憶の中にはその「あとひとつ」はない。

僕は中学三年になると、エレキに夢中になってしまった。もちろんそれは夏休みに従兄に連れてってもらった「新宿アシベ」の影響やテレビの影響が大きかったに違いない。
しかし僕はその歌、歌手よりも「バックバンド」のエレキに夢中になっていた。

その頃からどうも僕は、僕の家からは徒歩10分くらいの所、嘉多町の「サカヰレコード」で怪しいサウンドがけたたましく流れているのが気になりだしたのだった。
というのもそのサカヰレコードの近くに同級生の小林君がいて、なんとその小林君ちにはステレオがあって洋盤のレコードが棚にびっしり納まってるではないか。
そんな小林君、詳らかではないが「花街の母」だったようでお母さんは三味線、端唄小唄のお師匠さんで洋盤を聴いてると奥の方で「チントンシャン」だったから、なんとも不思議な空間だったことを憶えている。
で、洋盤、小林君のお勧め、最初の曲がフランク・シナトラの「想い出のサンフランシスコ」、そしてブレンダ・リーの「愛の賛歌」。この2曲は今でもソラで歌える、「三つ子の魂」何とやらで。
すっかり洋盤アワーに酔いしれて小林君ちを後にするとその途中、嘉多町の交番を過ぎたところにサカヰレコードが。
店内を覗くと今まで見た事もないようなギターが天井から後光を射しながら吊る下がっているではないか。
平べったい板に鉄の弦の張ってある、しかも真ん中に何のためか得体の知れない長方形の光ったやつがついていて、それにラジオの摘みのようなものもくっ付いて、電気を付けたり消したりする時のスイッチがついている。

どうやらそれが、「エレキギター」だったのだ。テレビで見るそれで知ってはいたものの、クレージーキャッツの植木等が弾く分厚いギターとは大分趣を異にしている。
サカイレコードの店内にはなにやらそんなギターを抱えたアメリカ人らしいバンドのポスターが貼ってあった。

アストロノウツ「太陽の彼方へ」と書いてあるそのポスター。

「テケテケテケ――――ッ」

あの時の衝撃は今でも忘れずに焼きついている。あの音、そして臭いと言うかあの時の空気・・・
僕は居ても立っても居られない、欲しくて欲しくて堪らない。もう頭の中はその「エレキ・ギター」でいっぱいになってしまっていた。

僕は思わず店員のお兄さんに聞いてみた。

「あれ、なんですか?」

「あれか、あれはエレキ・ギターって言うんだ」

なんかいつもはダサイお兄さんなのにその時ばっかりはとっても「エライ」人のように見えたから不思議だ。

「このギターはな、これだけじゃ音がでないんだぞっ」

得意そうにお兄さんは僕を覗き込むようにそう言った。

「これはエレキ。要するに、電気で音を出すギターなんだからアンプって言うのが絶対必要なんだ」

〈電気ギター?なんだそれ?〉僕は思わず胸の中で呟いていた。

そのお兄さん〈ふん〉っといった素振で僕を無視するとその電気ギターを丁寧に磨き始めた。

店の中では「テケテケテケ―――ッ」があっちへ行ったり、こっちは行ったり。

その電気ギター「エレキ」値札には1万2千円と無情、無慈悲にも書かれていた。

なんでも糸巻きの部分に「G」と大きく書かれていた。

〈1万2千円か~、アルバイト半年分だなと、エレキは涙か溜息か、と思うしかなかった〉

家に帰ってテレビのスイッチを入れてみた。やっぱり「テケテケテケ―――ッ」と、やっているではないか。
寝ても覚めても「テケテケテケ―――ッ」どうしても欲しくて、欲しくてたまらなくなってきてしまった僕だった。

しかしサカイレコードのそれは「メーカー品」ばっかりで、ビクター、ナショナル、グヤトーン、テスコなんて云う高級品しか置いてない。
値札には、2万円前後が何れも付けられている。これでは、手も足も出ない。

そこで、月賦屋だったが「三和デパート」と云うのが八間道路の羅漢町にあって、そこには多分、今にして思えば輸出用の代モンだったんだろうけど7千円台のがあった。

早速、牛乳配達のアルバイト、親父もお袋も兎に角絶対反対だったが、こっちは欲しくて居ても立っても居られない。一ヶ月3千円のアルバイトだったか。
夜は、塾だと嘘を言って「音楽センター」でコンサート後の掃除のアルバイト、一回百円。なにせ、ラーメンが50円くらいの時代だから今なら、千円だろうか。

そうしてようやく手に入れたエレキギター。アンプはラジオを改造して親父の知り合いの電気屋に作った。
兎にも角にもあの「テケテケテケ」が不思議でしょうがなかったし、「ウウ~~~ン」と云うトレモロアーム。これも僕のには付いていなかったから全くの謎であった。

そうこうしていたある日何処で聞いたのか、マックスのバンドがエレキを弾けるやつを、と云うことで人づてに僕の所に十歳も年上の「水野さん」と云う人が誘いに来た。
マックスのバンドは元々「ハワイアン」で、水野さんの出演している「社交ダンスホール」のマネージャーがどうしても「アストロノウツ」か「ベンチャーズ」をやれということだったらしい。
もちろん「ダンスホール」なんて云うところは大人の世界か、不良の世界。学校にでもばれればどんなお咎めを受けるか想像すらできなかった時代だった。
そこで、当時、「太陽の彼方へ」とか「アパッチ」とか「ダイアモンドヘッド」を弾ける小僧が居ると云うので僕の所へ来たらしい。

それが「社交ダンスホール」。もう連日超満員で土日は芋の子を洗うよう。二十歳前後のお兄さんお姉さんが殆ど。その時僕は初めて「ヤクザ」(チンピラ)と云う存在を知った。「用心棒」って言うやつも。

それにしても世代世代で夫々それなりの時代があるものだ。世間は「受験戦争」だったけど僕はその戦争には徴兵拒否、非国民「一人平和主義」を貫いたエレキ一台(笑)。
夏休みは渋谷の従兄、タイル屋でアルバイト。一ヶ月5千円、仕事はきつかった、砂とセメントこねたのをバケツに入れて現場まで運ぶ。従兄が貼ったタイルを拭き上げる。それでも休みには「新宿ACB」だ。
そして夏休みバイトが終わって高崎に帰れば「三和デパート」のエレキがぼくを待っているのだ、と思うと頭の中であの「テケテケテケ」がグルグルと回り始めた。

そうだ、高崎に帰った僕にはコレとない吉報が待っていた。というのは「三和デパート」は月賦屋なので僕が狙っていたエレキ「7千」何某は月賦の値段だから現金だと「6千円」チョイ。
当然、中学生に月賦で売れるわけもないので親を連れて来いっていう話なんだろうけど、現金なら1割引ということだったらしい。

そんなこんなで15歳で弾いたアストロノウツ、ベンチャーズを・・・

僕のエレキ人生の始まり。まさか70歳の齢でエレキを弾いて「テケテケテケ―――ッ」ってやってるとはその時は想像もしなかった。



Posted by 昭和24歳  at 10:22 │Comments(0)

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